横浜歴史さろん

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よこはま歴史仲間

大都市横浜には、郷土の歴史や文化について調査・研究している団体や、自主的に勉強しているグループがたくさんあるそうです。このページでは、そうしたお仲間の紹介や利用できる有益な施設の情報などを順次提供しています。

これまでにご紹介した団体、施設等の記事は「アーカイブ」にてご覧になれます。

横浜の歴史に関係する活動を行っているユニークなグループ、利用可の知られざる施設・建物などがあれば、紹介させていただきますので、ご連絡ください。
  rekishi@yokohamasalon.link

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★紹介コーナー No.19

自由民権を源流に『神奈川県史』を学び究める京浜歴史科学研究会

今年の「夏の集中研究会」

2023年8月27日、野毛地区センターで行われた京浜歴史科学研究会「夏の集中研究会」の合間に、研究・会報担当の大湖賢一氏と事務局長の伊東富昭氏にお話を伺いました。会の代表は当面置かないそうです。
 その日のテーマは「関東大震災100年を考える」で、『関東大震災がつくった東京―首都直下地震へどう備えるか』(武村雅之著、中公選書 2023/05)を題材に、出席者各自担当の章の発表をされたようでした。今回は、これまでの退職者中心の歴史サークルとは趣を大きく異にし、社会科の先生たちが率いる硬派の「学ぶ会」を紹介します。 (取材/文:渡辺登志子)

1.会設立のきっかけは、自由民権百年全国集会

「自由民権百年の記録」

1981(昭和56)年11月21・22日に横浜市の神奈川県民ホールにおいて自由民権百年全国集会が開催され、全国各地から約4000名もの人々が集結した。その内容を詳しく報告した「自由民権百年の記録」(三省堂 1982年)には、著名な研究者、教育者に加え、有名作家や俳優も参加し、壇上で話をした。当時の長洲一二神奈川県知事松本清張氏も講演している。大湖氏は恩師の勧めで参加したが、当時はまだ大学生だった。
 この集会を成功させた神奈川実行委員会は、この神奈川『自由民権百年』運動を、自由民権運動をはじめとする地域史の学習・研究を推し進める運動へと発展的に継承することを掲げて、新たな会の発足を図った。それが1984年に発足した京浜歴史科学研究会で、当時の会員には教員が多かった。

「京浜」とは東京・横浜ではあるが、ここでは神奈川県、東京都を含めた漠然とした地域を指し、主にその地域の近現代史を、その地域に住む人々によって、科学的に学ぶというのが京浜歴史科学研究会の趣旨のようだ。会則にはさらに、会の目的として、「京浜地域における歴史教育の科学的・民主的発展に寄与する」「京浜地域の勤労者・住民による文化的諸活動の自主的・民主的発展につとめる」とあり、ここに自由民権を底流とする会の理念があると思われる。

2.活動の主軸は『神奈川県史』を学ぶ会

京浜歴史科学研究会の学習・研究は、「歴史を科学する」というだけあって、硬派のイメージが強く、一般的な退職者中心の歴史の勉強や歴史散歩をする趣味活動とは一線を画している。その真摯な取り組みから若手の学習者からは、その後、研究者として活動を展開していった者も多い。また、中高教員としてその成果をそれぞれの授業などに生かしていった者もいる。因みに、大湖氏、伊東氏とも現役の先生である。

会の活動の中心は「『神奈川県史』を学ぶ会」(以下「学ぶ会」)である。現在にいたるまで8月を除いた毎月一回、実施されている。「学ぶ会」は、現在は「幕末開港編」と「大正昭和編」という二部構成で行われている。

「大正・昭和編」は2023年9月で第279回行われている。この学習会は当初は単に「県史を学ぶ会」であり特別な名称はなかったが、「幕末・開港編」が始まってからは「明治・大正編」と命名され、(自由民権運動が盛んになったこの時期を最初に学んだという)現在は「大正・昭和編」となっている。横浜開港資料館所蔵『佐久間権蔵日記』(大正10年)を学んでおり、原文の解読作業をし、翻刻も行っている。この日記は鶴見地区が浅野総一郎の埋め立て事業などにより工業化していくなか、地域がどのように変貌していくかを活き活きと描いている魅力的な史料である。

「幕末・開港編」は9月で第368回行われた。当初は『神奈川県史資料編10 近世7 海防開国』をテキストとして学習を行った。その後、『逗子市史』や『浦賀奉行関係資料 新訂臼井家文書』(横須賀史学会編)などを扱い、現在は『新横須賀市史』資料編・近世II「浦賀資料」を学習している。

「学ぶ会」における史料の読み方はこの会を始めて以来ほとんど変わっていないという。すなわち、①史料の読み合わせ(声を出して輪読)、②その史料の解釈、③その史料の背景についての報告・討論、という形式。この「学ぶ会」はじつに歩みの遅い活動であり、一回の学習会で多くの史料を読んでいくわけでもないし、学習会の時に出された疑問が、相当後になってやっと解明されることもざらであり、学習会に出たからといって、簡単に何か研究成果に結びつくというわけではないが、ひとつの史料をとことん読みこんでいくことが、そこから見えてくる人物や地域、時代の背景に確実に迫っていくことにつながることを実感できている、とのことである。

この“声を出して読む”のはなぜか、と伺ったところ、それは声に出すと“誤魔化しが効かない”からだそうで、きちんと調べて理解していないと、声には出せないようである。「神奈川県の歴史」の実物を図書館で見たが、資料は活字にはなっているものの、古文書の翻刻や昔の文語体の文章が多く、使用漢字・表現法など現代文とは全く違うので相当時間の予習が必要となるだろうと感じた。

「歴史を歩く会」(以下「歩く会」)

2018年秋の歴史を歩く会『上野戦争150年を歩く』にて
京浜歴史科学研究会 事務局の方々

歴史を歩く会は、研究会の学習をもとに原則として春と秋の2回行われる。これは会員のみならず、広く募集をかけて実施される。1985年の「真土事件を歩く」を第1回として、2023年5月の「忠臣蔵から開港・維新を歩く ~高輪から品川へ~」まで76回実施されている。
 この「歩く会」のコンセプトは、「歩くコースにストーリー性をもたせる」、「最新の学問水準による説明をする」、そして「目に見えることは全て紹介・説明する」ことである。配布するパンフレット(平均すると10頁以上)の原稿を分担して執筆し、当日はその執筆者が参加者に案内と説明を行う。実施にあたっては、各新聞に広報してもらい、過去の参加者には必ず案内の手紙を出すようにしてきた。こうした努力の結果、毎回40~80名の参加があるそうだ。

3.活動実績

これまでの活動は、毎月発行する『京浜歴科研会報』(2023年7月で440号)に反映されている。「学ぶ会」や「歩く会」の記録、会員による書評などが主な内容であるが、他に京浜地域における他の会の活動や、資料館・博物館の催し物などの紹介にも力を入れている。これは大湖氏の担当でこれまでの20年間、毎月の自分の責務として取り組んでいる。
 また、主に会員の研究活動の成果をまとめて発行しているのが『京浜歴科研年報』(2023年までに35号)である。年報は会員から原稿を募り、若手の事務局員 塚越氏が編集をしている。

会が刊行した大著として『近代京浜社会の形成 創立20周年記念論集』(岩田書院、2005年)がある。本書の冒頭で前代表の内田修道氏が次のように述べている。「私たちは、市民講座や 講演会、シンポジウム、歩く会と種々取り組んできたが、基本は『県史を学ぶ会』を中心とした学習活動である。史料は声を出して輪読する、問題点を探り、研究史を紐解く、そして現地を歩く、さらに学んだ成果を出来るだけ論文にまとめ発表し社会に還元してゆく。」
 現在もこの路線のまま、弛みなく活動が続いている。

4. これからも

やっとコロナ禍が治まってきたので、コロナ禍前の活動に戻していく方向にあるそうだが、課題としては「学ぶ会」の参加者が固定化したり、事務局員の高年齢化という問題があり、総会においてその打開策が検討されたこともある。自分たちのようにやっていける継承者が出てくることは考えづらく、このままであれば、次第に活動のダウンサイジングもやむを得ないかもしれないと考えているそうだ。
 しかし一方で、創立以来の例会参加者や事務局メンバーをみてみると、会報を見て参加された社会人、事務局員から紹介されて参加するようになった大学院生など意外に新しい人が入ってきていることも事実であるという。
 暫くは、これまで通り、創立当初の理念に沿って実直に会を進めていくようだ。
 京浜歴史科学研究会の会費は一年間 3000円で、現在の会員数は35名(2022年度)である。

会のホームページ(HP)を見ると活動内容などが良く分かります。
https://www.asukawa.com/rekika/r001r01.htm

京浜歴科研への御誘い~あなたも京浜歴科研へ~(HPから)

京浜歴史科学研究会は、京浜地域に生まれた歴史を科学する、市民・学生・教育者・研究者などの共同の集いです。地域の歴史に関心をお持ちの方、歴史を科学的に学ぼうとなさっている方、是非ご入会下さい。

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◆京浜歴科研会報
(会報は冊数が多いため2018年から最新号までの、トップ記事のタイトルだけの掲載。会報内容はHPを参照ください)

年/号 発行日 内容
2018年
第379号
01月25日 京浜歴史科学研究会第34回総会のお知らせ
第380号 02月25日 飛鳥山から巣鴨へ
第381号 03月25日 春の浦賀を歩く
第382号 04月25日 権蔵、困った人たちに手を焼く
第383号 05月25日 嘉永5年4月頃の浦賀の情勢
第384号 06月25日 春の浦賀を歩く
第385号 7月25日 維新150年 戊辰戦争から考える
第386号 09月25日 上野戦争150年を歩く
第387号 10月25日 上野戦争150年を歩く
第388号 11月26日 第一、二次ペリー来日時の褒賞
第389号 12月26日 京浜歴史科学研究会第35回総会のお知らせ
2019年
第390号
01月26日 上野戦争150年を歩く
第391号 02月25日 大正8年3月前半の佐久間家
第392号 03月25日 野毛山から横浜港へ
第393号 04月23日 野毛山から横浜港へ
第394号 05月27日 営業税調査委員の選挙、四ツ谷の紅療治について
第395号 06月25日 夏の集中研究会“『幕末政治と開国』に学ぶ„
第396号 07月24日 野毛山から横浜港へ
第397号 09月25日 日本橋から深川へ
第398号 10月25日 日本橋から深川へ
第399号 11月25日 ハマ子の結婚
第400号 12月25日 京浜歴史科学研究会第36回総会のお知らせ
2020年
第401号
01月27日 日本橋から深川へ
第402号 02月25日 軍艦製造・浦賀の軍備
第403号 03月25日 山手から根岸へ
第404号 4月25日 浦賀奉行の鳳凰丸
第405号 05月25日 廻船問屋(横浜出店、代替わり、名字名乗り)
第406号 06月26日 使用人の問題、セレブ佐久間家 など
第407号 07月27日 鎮守の指定神社認可と例祭
第408号 09月25日 浦賀での造船作業の展開
第409号 10月25日 下男と保険のこと
第410号 11月25日 銀座「天金」のこと
第411号 12月25日 大谷金蔵の病状、お盆の仏事など
2021年
第412号
01月25日 工場用敷地売却の件
第413号 02月26日 鳳凰丸完成と江戸廻送までの記事
第414号 03月25日 孫、亮一の誕生・荏原郡大森町 など
第415号 04月25日 大正8年県議会議員選挙をめぐって
第416号 05月25日 老中・若年寄らによる鳳凰丸「見分」をめぐって
第417号 06月25日 鳳凰丸完成と江戸廻送までの記事
第418号 07月25日 鳳凰丸乗り試し、火事騒ぎ
第419号 09月25日 浦賀宮下町太平次方より出火・類焼の件
第420号 10月25日 天長節、観艦式など
第421号 11月25日 浦賀における火事や事件の対処の一断面を見る
第422号 12月25日 「倭一」味噌営業の一端
2022年
第423号
01月25日 新嘗祭と持丸二郎の入営のこと
第424号 02月25日 溺死人、溢死人各一件について
第425号 03月25日 商売上のトラブルなど
第426号 04月25日 新緑の江戸城を歩く
第427号 05月25日 亮一の食初・恐慌翌年の正月
第428号 06月25日 新巻半左衛門娘井戸に落ち入り溺死した件と旅人病死及び無宿者の牢内病死の件
第429号 07月25日 新緑の江戸城を歩く
第430号 09月25日 溺死体の漂着を巡って
第431号 10月25日 田園調布から中原街道を歩く
第432号 11月25日 権蔵の正月 温泉旅行と皮膚病
第433号 12月25日 京浜歴史科学研究会第39回総会のお知らせ
2023年
第434号
01月25日 京浜歴史科学研究会第39回総会のお知らせ
第435号 02月25日 積荷や廻船に関する規定に関する問題
第436号 03月25日 忠臣蔵から開港・維新を歩く ~高輪から品川へ~
第437号 04月25日 忠臣蔵から開港・維新を歩く ~高輪から品川へ~
第438号 05月25日 桜田門外の変後における取締り強化など
第439号 06月25日 皇太子の渡米、村会議員総選挙など
第440号 07月25日 夏の集中研究会 関東大震災100年を考える

◆京浜歴科研年報(最新号~2013年までの分)

発行日 特集・巻頭論文
35 2023年2月1日 【論文】薩摩藩士中井弘の幕末・維新期の情報収集活動について
34 2022年2月1日 【論文】日本とスウェーデン・ノルウェー条約締結の意義
33 2021年2月1日 【論文】トクヴィルとヘンダーソン『朝鮮の政治社会』
32 2020年2月1日 【論文】幕末の廷臣警衛
31 2019年2月1日 橘耕斎の人物像をめぐって
30 2018年2月1日 【論文】土佐藩の蝦夷地開拓・警衛とロシア認識
29 2017年2月1日 【論文】横浜鎖港をめぐる水戸藩閥のネットワーク -池田慶徳・徳川慶篤・一橋慶喜を中心に-
28 2016年2月1日 【特集】佐久間権蔵日記 -大正6年7月~12月翻刻-
27 2015年2月1日 【特集】佐久間権蔵日記 -大正6年1月~6月翻刻
26 2014年2月1日 【論文】攘夷をめぐる廷臣奉答の俯瞰的考察
25 2013年2月1日 【論文】万延期の京都警衛 -幕末期京都警衛の体制化とその変遷(2)-

◆歴史を歩く会(最新会~2013年までの分)

実施日 テーマ サブタイトル
76 2023年5月14日 忠臣蔵から開港・維新を歩く ~高輪から品川へ~
75 2022年11月6日 田園調布から中原街道を歩く
74 2022年5月15日 新緑の江戸城を歩く
73 2021年11月 (開催見送り)
72 2021年5月 (開催見送り)
71 2020年11月 (開催見送り)
70 2020年5月10日 (開催見送り)山手から根岸へ-教会・墓地・競馬場-
69 2019年11月17日 日本橋から深川へ-日本銀行・日本橋・芭蕉庵-
68 2019年5月12日 野毛山から横浜港へ-野毛山・みなとみらい・赤レンガ倉庫-
67 2018年11月18日 上野戦争150年を歩く
66 2018年4月22日 春の浦賀を歩く
65 2017年11月12日 飛鳥山から巣鴨へ-飛鳥山・染井霊園・とげぬき地蔵-
64 2017年5月7日 春の川崎大師を歩く-宿場・干潟・お大師さま-
63 2016年11月13日 秋の駒込・千駄木を歩く
62 2016年5月15日 春の増上寺・愛宕山を歩く
61 2015年11月22日 秋の大磯を歩く~
60 2015年5月17日 上野・湯島・本郷を歩く
59 2014年11月9日 横浜居留地を歩く-山手-
58 2014年4月13日 春の佃島・築地を歩く
57 2013年11月10日 秋の鎌倉を歩く―大仏・文学館・長谷寺―
56 2013年3月14日 「江戸」から「東京」へ―東京駅・皇居・霞ヶ関―

以上

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